先程から背後に嫌な気配を感じる。ほら、振り返りたくないあの気配。
「Oui. À bientôt.」
俺は携帯電話を切って机の上に置いた。そしてそのまま後ろを振り返らずに、恐らくソファーに寝転んでいるであろう来客に言う。
「何の用?フリッツ。不法侵入は止めろって言ったよね」
彼が来たら仕事どころじゃなくなるが、一応、書類を手掛けるふりをする。
「だって、普通に玄関に行ったって追い返すだろ。だからわざわざ窓から入ってるって訳」
無駄な事を学ぶな。そして自慢気に話すな。全く、有給休暇を貰うと何時もこうなんだから。少しは俺の仕事も考えろって言ってやりたい。それとも、休暇の取れない俺への皮肉か?
「暇が嫌なら有給貰わなきゃ良いのに」
「ボスに無理矢理取らされた。たまには身体を休めろだと」
シュルツの野郎、無駄なことをしてくれたな。二ヶ月に一回彼の面倒の為に仕事が出来ない俺のことも考えてくれ…… いや、シュルツはフリッツがここにくる事を知らないか。上司の命令が大切なのはわかるけど、
「もう少しさ、友人のことを考えるってことはしないの?」
フリッツの方を向いて尋ねる。すると彼はキョトンと目を丸くして…… ああ、理解していないな、これ。
「何を?」
「だから俺が忙しい、だとか、仕事をやってるだろう、だとか」
「でも、俺がくると仕事やってるねぇだろ?」
君のお陰で出来ないんだ……って理解してないね。それとも、それを言わない俺がフリッツに甘いのかな。
「はいはい、そうですね。で、何をお飲みになりますか?Visiteur.」
「何か他人行儀になってねぇか?」
全く、男二人でカフェとか楽しくも何ともない。せめて、此処に可愛い女の子……コルネーリアでもいいからいてくれれば良いのに。まあ、所詮無理な話だけど。
取り敢えず二人分のコーヒーを入れて、先程焼いて貰ったケーキをフリッツの所に持って行く。キャラに似合わず大のトルテ好きのフリッツは案の定、目を輝かせ体を起こして姿勢を正す。というか、人の家に来たなら、行儀を良くするって事を知らないのかね?
「で、ついでにフリッツ。頼みたい仕事があるんだけど」
「食べたら聞くな」
嗚呼、俺の貴重な睡眠時間が消えた。今夜も徹夜決定だな。
随分前に書いてお蔵入りになっていて物
結構お気に入りだったり(笑)
一ノ瀬氏は苦労が絶えません
でも良いお兄さん!
超余談
フリッツの一番好きなトルテは「ザッハトルテ(オリジナル)」

PR