色は匂へど散りぬるを
我が世誰そ常ならむ
有為の奥山今日越えて
浅き夢見し酔ひもせず
古(いにしえ)の歌人が歌に詠んでいるように、また仏の有り難い教えのように、万物は常に流転し続けている。それは人であろうと物であろうと同じことで、世界を支配する輪廻から抜け出すことは出来ない。
だから生きるも死ぬもこの世の宿命(さだめ)になっているならば、この出会いだってきっと必然。
「お銀?」
私の目の前に現れた得体の知れない男の第一声がこれだった。
ここは我が一色家の物置。先祖代々から続く宝もといガラクタが沢山詰め込まれている。
私は祖母からある刀を取りに行くよう言われ、生まれてから片手で足りるほどしか入った事のないこの古い家屋に来ていた。物置と呼ぶには大きすぎる部屋の中で綺麗に並べられたまま埃を被っている過去の遺品の中から目当ての物を探している最中、ガタンという人為的な音に驚き音のした方を向くと、見知らぬ男が尻餅をついていた。
「泥棒?」
私は手元にあった手頃な大きさの棒を取り、前に構えた。万一、この男が襲ってこようも丸腰なので返り討ちにする自信はある。
「お銀?」
私のことを認識した彼が言葉を発した。着物を着崩し、右目に眼帯をした男の格好は明らかに時代錯誤している。『知らない人に声を掛けられたら逃げろ』などという教訓も教科書の上でしか効果を発揮しないようだ。
「殺気が出てねェ、別人か。手前ェ、名は」
そう言うと男は立ち上がった。深い蒼の隻眼が私を見据える。
「アンタこそ誰?ここは私の家なんだけど」
無理やり絞り出した声は自分でも分かるほど震え、頼りがなかった。男は物珍しそうに私を見ると口角を上げた。
「ほぅ、手前ェが俺の次の主か。申し遅れたが俺は水龍刀。名は熨斗目」
彼はこの状況を楽しんでいるように笑った。そして私の探している刀の名を言った。
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熨斗目と茜の出会ったお話
長いので前編/後編に
続きます

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