聖ミネルヴァ学院3年A組2番に在籍、学院で絶対的な権力をもつ生徒会の会長、また最年少で射撃日本代表―― これが、浅井恭介という人物の肩書き。しかし素晴らしいのは肩書きだけで中身はとんでもない人だ。強引かと思えば副会長に頭があがらないし、ヘタレかと思えば自己主張が激しいし。兎に角、私にとっては面倒な先輩。
そんな浅井先輩との仕事を任されたのは昨日の事。突然の有理先輩からの電話で明日の会議の報告書作りの代理を頼まれた。大切な私用と重なりどうしても出られないらしい。普段の有理先輩からは想像出来ないことに驚きながら、私はその仕事を二つ返事で引き受けた。何故同学年に頼まないのか今となっては不思議だけれどね。考えてみれば、浅井先輩と二人での仕事は初めてな気がする。先輩の周りにはいつも誰かがいるし、私の周りにも……
生徒会室の戸を軽く叩き中に入ると既に浅井先輩は来ていた。優雅に紅茶を飲みながら書類に目を通すその姿は、認めたくないがとても絵になる。背は高くないけれど細身の身体に整った顔立ち。彼が人気があるのも頷ける。勿論、黙っていればの話だけれど。
「来たか」
浅井先輩の一言に私は我に帰り気を引き締める。クラスメート曰わく心地良いらしいテノールも、素直に格好良いとは思うことは出来ない。この声のお陰でどれだけの苦労をしてきたことか。思い出したくもない。容姿だってそう。完璧なまでに格好良いのに、性格だけがとても残念だ。もし神様がいるなら、きっと嫉妬深い人なんだろう。
「お前はあれの要点をまとめろ。30分以内だ。いいな」
先輩はそう言って隣の机を指差した。ご丁寧なことに私の分を予め分けていたようだ。しかもかなりの量。こんな量が普通の人間に30分で出来るものか。有理先輩でもない限り。私は溜息を尽きながら膨大な書類と向き合った。あの会長は相変わらずむかつくほど優雅に紅茶を飲みながら書類に目を通している。今更ながらこの仕事に私が選ばれた意味が分かってきた。認めたくないけれど。
だらだらと長く、面白みのない文章を読むのは本当に疲れる。更に要点を抜き出してまとめるとなると尚更。資料も会計報告やイベントの企画など分類すらされていない。やるならもう少し段取りよくやる方が良いと思うのに。せめて分野別に資料を分けるとかさ。
漸く全ての資料をまとめ終わった頃には予定の30分を大幅に過ぎていた。まぁ、私は普通の人間であり、有理先輩でないから当たり前の事だけどね。使い終わった資料をまとめながら浅井先輩の方を横目でみれば…… 同じ時間で私の倍以上をこなしている。目を疑って何度まばたきをしても見える物は同じ。私の手元の物より二倍以上の高さに積まれた資料が先輩の机の脇にある。正直信じられない。あの怪物――なんて言ったら怒られるけど――有理先輩に勝るとも劣らずだ。
「藤岡、終わったのか」
気が付けば浅井先輩は私の方を見ていた。私は要点をまとめた紙を先輩に渡す。先輩はそれをパラパラと捲りながら確認する。あれで本当に確認できているのだろうか。
「要点が綺麗にまとまっているな。助かった」
使った資料を返すついでに先輩の手元の紙を見てみれば、走り書きで各資料の要点を書き留めていた。本当にあの膨大な量の資料を読み終えているみたい。
「……先輩、凄いですね」
山になった資料を身ながら、思わず口に出してしまった。先輩は驚いて私の視線をたどったようで「ああ、これか」と溜息を吐いた。
「凄くもなんともねぇ。有理は俺の半分の時間でこれをこなしやがる。ほんと、アイツはバケモンだ……っと、俺がバケモンって言ったこと有理には言うなよ」
お願いだから、と切実な様子で言う浅井先輩に思わず笑ってしまった。ついさっきまでの生徒会長の威厳は丸つぶれだ。
「言いませんよ。というか、実際そうじゃないですか」
私が笑いながら「同意したこと言わないでください」と言えば「恐ろしくて言えるわけねぇだろ」と情けない返答が返ってきた。本当に暴君なんだかヘタレなんだかわからない。
「まぁ有理にお前に負担を掛けるなって言われてたし、そもそも俺の仕事だからな。残りは俺が片付けるのは当たり前だ」
フッと笑いながら言う先輩は不覚にも格好良いと思ってしまった。馬鹿なことばかりやる人だと思っていたけど以外と責任感の強い人なんだ。
「さて、藤岡。お前はもう終わって良いぞ。後は俺がこれをまとめれば終わりだ」
「いえ、私も手伝います。有理先輩から仕事を引き受けたからには最後までやります……ですが、少し休憩しましょう?私紅茶淹れてきますから」
キョトンとしている浅井先輩を置いて私は給湯室に向かった。まぁ、今日くらい優しくしても罰はあたらないだろう。だって今日は……
「浅井先輩、お誕生日おめでとうございます」
浅井ハピバ
間に合わないと思った…
本当は沙理菜に浅井の1日を観察してもらうつもりだったけど、無理がありました
だから浅井と仕事を
普段は沙理菜の分量を浅井がこなし、浅井の分を有理がこなします
恐るべし怪物有理
しかしまぁ、語学科目が大の苦手な浅井がよく資料を読めますね
勿論からくりがありますが
ではHappy birthday!浅井恭介
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その後
「浅井先輩、それなんですか」
「何って報告書だが」
「それのどこが?大体、ここ、文章がおかしいですよ。あ、ここも」
「そうか?それくらい大丈夫だろ」
「ああ、もう!私が書きます。浅井先輩は資料の片付けでもしていて下さい」
浅井先輩1人にまとめを任せなくてよかった。あの人だけだったら今頃ひどい報告書が出来てるはず。
読めるけど書けない浅井(笑)

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