久し振りに我が儘を言って貰った休暇は、懐かしい知人と会って、可愛い子犬と戯れてこようと思う。
二人で一緒に動く事が多い僕にとって、一人旅は新鮮だ。相方は今別の仕事で遠く離れた地にいる。そんな中僕が悠々と休暇を取るのもどうかと思うが、サボり魔な相方の事。現在進行系で仕事をサボってるに違いない。それに、休暇中だって仕事が入ればすぐそちらに向かう予定だし。通り慣れた筈の道も、一人で歩くと違う景色に見える。今日は愛鎌も自宅待機。物騒なものは置いて、我が愛しい悪友にちょっかいを出しに道を急ぐ。
右手に持った箱には彼の好物であるザッハトルテ。勿論、オリジナルの高級品。左手に持つのは知人に宛てた、尊敬する師からの文。高ぶる心を静めながら、僕は記憶の中の道を歩く。
門の前を通り過ぎ、塀を登って入るのは僕なりの礼儀。死神に門から入られたら、たまったもんじゃないでしょう? トルテを気遣いながら越える塀はやはりいつもと違う。さて、先に文を渡してしまおうか。手に持ったモノを見比べ、先にトルテを片付ける事にした。我が家の様な広い敷地を軽快にあるく。彼はきっと、いつもの場所で昼寝をしているだろう。
大きな木の前までくれば、彼はその下に腰を下ろし、愛銃の手入れをしていた。やはり、予想通り。僕は出来るだけ気配を消して彼に近づく。そして彼の頭の上からトルテの箱を目の前に差し出す。集中して手入れをしていた彼は驚いて顔を上げる。
「やぁ、Quid agis?」
僕が挨拶すれば、彼はキョトンとして僕の顔と差し出された箱を見比べる。僕がここに来るのは久しいから、当然の反応……になるのかな。
「ここに何の様だ、死神」
目をきっと吊り上げて睨みつける姿はまさに番犬。どうやら子犬は何事も変わらず過ごして来たようだ。
「偶には顔を見ておこうと思って。後これ、Congrats catulus.」
僕の言葉で伝えれば、彼は怪訝そうに僕を見て渋々箱を受け取った。僕の言葉は理解していないけれど、その方が悪戯のし甲斐があるだろう?
「これ、何だよ」
彼は受け取った箱を開けようとはせず、少し振ったりして中身を確かめている。嗚呼、そんな事をしたら、トルテが台無しになってしまう。
「怪しいものじゃ無いから開けてごらん」
諭す様に言えば、彼は渋々箱を開ける。箱の中身は勿論子犬くんの好物であるザッハトルテ……
「わ、何だこりゃ」
を、びっくり箱風の内蓋の下に隠してある。だって、普通に渡すのは芸がないし、面白くないじゃないか。
「ね、怪しい物じゃないでしょ?」
「十分怪しいわ!」
箱を投げ捨て様とした彼を慌てて宥め、内蓋を開ける。中に入っている物をみて頬を緩める彼はまさにcatulus。見えない尻尾を懸命に左右に振っている。こういう時だけは素直な気分屋さん。
「ね、怪しい物じゃないでしょ。Herzlichen Glueckwunsch zum Geburtstag, Welpe!」
誰が子犬だ、と口では不平を言いながらも口元は緩んでいる。この反応が楽しいから、子犬を構うのは止められない。

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アンリで話を書こうと思い、友人にお題提供を求めたところ「画家」と言われました
で、ジャズのスタンダード曲、枯れ葉を聞きながら書いたらなんか良く分からないものができたので、投下
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秋の紅葉。月や、夕暮れ時など美しいものにあふれる季節だが、紅葉は各段に美しい。緑から赤や黄に変わる様は桜にも劣らず、多くの人々の心を楽しませる。
四季が美しいこの国のなかで最も秋が好きだ。ひんやりと澄んだ朝の空気は爽やかなティータイムを提供してくれるし、夕暮れが作り出す橙と群青のグラデーションは見る人の心を奪う。加えて、食べ物も美味しいとなれば文句なし、だ。
ただ一つ物足りないとすれば、人恋しくなる季節なのに俺の隣には誰もいないと言うこと。いつも一緒に馬鹿やってた友人は今頃遠い祖国の明るい空を見ているのだろう。単身で母の出身地たるこの異国の地に乗り込んで早二年が過ぎた。なかなか売れない画家の俺に、祖国から来る手紙は帰国を促すものばかりだ。
「そろそろ、限界かねぇ」
異国の地で常に新しい視点を養おうとした俺が出会ったのは表現しきれない壮大で優雅な自然と、不甲斐ない俺自身だった。芸術学校を優秀な成績で卒業したからと威勢をはっていたが、それは所詮虚構に過ぎない。絵を書いても評価なんてされない、厳しい現実だ。それでも、二年はやって来た。しかしそろそろ潮時だろう。
キャンバスを片付る。描き掛けた絵はこれで何枚目になるだろうか。最近は完成できなかった絵が増えてきた。足元に落ちた枯れ葉を見れば、もう秋も終わるのだと実感する。
「Oh, je voudrais tant que tu te souviennes...」
祖国の小唄を口ずさんだ。愛しい人を思う恋の歌。懐かしい顔が頭に浮かぶ。もう暫く会っていないが、どうしているだろうか。
「何感傷に浸ってるのよ」
「どうしてここに……」
聴こえた懐かしい声に振り向けば、そこには愛しい彼女の姿が。季節外れな明るい笑顔は枯れた俺を癒やしてくれるようだ。
「だって貴方は何も連絡をくれないじゃない」
だから私の方から来ただけよ、と彼女は笑った。久し振りに見るその顔からは、あどけない少女の面影は消え去っている。美しい女性となった彼女は俺の横を通って雄大な自然の中へと身を躍らせる。
「アンリが帰って来ないのもわかるなぁ」
暫くして彼女が呟いた。今まで一度も言われた事のない、共感の言葉。
「どうしてそう思うの?」
やっとの思いで尋ねる。すると彼女は綺麗に笑った。
「だって、こんなに綺麗な自然の中にいたら、誰だって帰る気がなくなるわ」
冬支度をする木々はお世辞にも綺麗とは言い難い。それでも俺は、彼女の言葉だけ救いだ。俺の存在を唯一肯定してくれる。寒い季節を乗り切れるための、大切な存在。
友情出演:コルネーリア
考察については後で

「有理先輩、これ終わりました」
今日は仕事がないから、久し振りに生徒会に顔を出したら有理先輩が一人で仕事をしていた。膨大な紙に囲まれながら仕事をこなす姿は格好良いと思うが、明らかにあの量は生徒会がこなす仕事じゃないと思う。放って置くのは悪い気がして、俺は有理先輩に手伝いを申し出た。 ……勿論、こき使われるのは覚悟で。
「ありがとう。そこに置いておいてくれるかしら」
有理先輩は書類に目を通しながら言った。そこ、とは多分先輩の使っている机の事だろう。僅かにスペースが空いている。
柏木有理先輩、聖ミネルヴァ学院の生徒会副会長で柏木グループのご令嬢。肩書きだけでも大層なものを背負っているのが分かる。家でもいろいろ大変みたいだし、それに加えて生徒会でのこの膨大な量の仕事。ほんとにこれだけの事をやってのけるのだから凄い。
「怜さん、暇なの? なら、次はこれをお願い。要領はさっきと同じよ」
そして人使いが荒い。まぁ、それは覚悟してたけどね。それでも、俺の所に回ってくるのはハンコを押すとか簡単な仕事だけ。重要な仕事は下っ端の俺に任せられないってのもあるんだろうけど、書類を一枚一枚見て訂正なり加筆なりしていくのを一人でこなしている。ほんっとバケモノか、この人は。
「怜さん、手が止まっていますけど?」
「わわっ、すみません!」
おまけに人の心の変化に敏い。ほんっと怖い人だねぇ。
時計を見れば俺が仕事を始めてもう二時間を過ぎていた。有理先輩は俺が来る前からずっとやっていたに違いない。
「先輩、休憩取らなくて大丈夫なんですか?」
「あら、もうこんな時間。さて、休憩にしましょうか」
俺の提案に有理先輩は手際良く手元の資料を片付けた。そして「ティーパックでごめんなさいね」と言いながら二人分の紅茶を用意した。手際が良すぎるというか、なんと言うか……
「有理先輩は、」
膨大な仕事を一人でこなして大変じゃないなか、と聞こうとして止めた。愚問だ。この人は好きでこの仕事をやっているのだから。続きを促す先輩に少し笑って別の言葉を紡ぐ事にした。
「有理先輩、お誕生日おめでとうございます。無理はしないでくださいね」
「ありがとう、でも大丈夫よ」
そう言った有理先輩は綺麗に微笑んだ。
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有理様ハピバ
アップするのを忘れていた……
有理は誕生日っかそういうの気にしていなさそう(笑)
人に言われて気づく……みたいな?
まぁ、忘れてた事を外に出すようなへまはしませんが
あくまで自然に「ありがとう」を言うのが有理
有理と怜は個人的に良く見るコンビ
一人で黙々と仕事をする有理とこき使われるとわかりながらも手伝わずにはいられない怜
なんだかんだで良いコンビです(笑)
ではHappy birthday!柏木有理
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オマケ
「有理先輩ってなんでそんなに手際が良いんですか?」
「私、そんなに手際良いかしら? 至って普通だと思うわ」
「うっ……」
「周りの状況をしっかり把握して、その時一番必要な事を優先してやるのよ」
それが“手際良い”ことだと思うんだけど…… 取り敢えず、俺には難しいことだ。

「さて、それでは始めます」
定期試験後、毎回恒例の生徒会成績開示。学校の代表である生徒会役員たるもの、生徒会の模範になるよう勉強にも励まねばならないという考えから始まった伝統のある行事だ。彼らは自分の成績をまだ知らない。今から生徒会長から全体順位の発表があり、その後各自のもとに成績が渡される。
「それじゃあ始めるぞ。生徒会長浅井恭介、総合430点で8位」 人知れず拍手が起きこった。浅井は満足そうに鼻で笑う。
「当然の結果だ。で、科目別に英語71点、社会99点、国語82点、数学85点、理科90点」
浅井の言葉を聞き、有理がホワイトボードに書き込んでいく。他の役員はそれぞれ複雑な気持ちでそれを見守っていた。
「生徒会副会長柏木有理、総合476点で2位。科目別に英語100点、社会96点」
「あら、恭介に3点負けたわ」
「レベル高ぇ」
西園寺が浮かない顔で呟いた。浅井は口角を上げてニヤリと笑う。
「フン、俺様に勝とうなんてまだ早いな。あんなモン、先生の話全部覚えてりゃできるだろ」
「えっ! そうなの?」
浅井の話に、目を輝かせた晴輝が食いついた。それに答えようと口を開き掛けた浅井を皆川が手で制し、口を開く。
「それが出来るのは恭介だけだ」
それに一同は頷き、晴輝は「ちぇっ」とつまらなそうに舌打ちした。
「当たり前だろ。なんたって……」
「恭介、次に進みなさい」
有理の一声で再び静寂が訪れる。浅井は短く溜息を吐くと資料を捲った。
「有理の残りが98、89、93。生徒会書記清水美緒、総合389点で28位……って、またかよ」
浅井が溜息を吐いて資料を机に置いた。見るからに呆れた顔をする浅井に対し、名前があがっていた美緒は「あれ?」と首を傾げる。その間に有理が浅井が机に置いた資料を取りホワイトボードに書き込んでいく。
「英語83点、恭介より良いので良しとしましょう。社会53点、国語93点、数学80点、理科89点……美緒」
「仕方ないじゃん。英語と理科は頑張ったでしょー」
美緒は文句を言うように頬を膨らませながら言った。浅井は再び溜息を吐く。
「英語と理科は前回50点台だったから、大分良くなった。だがな、前回八割以上だった社会がなんで53なんだよ」
「だってー、有理が、英語と理科やらなきゃ生徒会に残してくれないって言うんだもん」
美緒は頬を膨らませたまま言った。そして、拗ねたようにそっぽを向く。浅井と有理は顔を見合わせて溜息を吐いた。
「ごめんなさい、私の躾方が悪かったわ。後でちゃんとするから、次に行って頂戴」
有理の催促で恭介は再び資料を手にした。
「生徒会会計皆川亮太、総合386点の31位。へぇ、生徒会会計は伊達じゃないな」
浅井は資料を一人で眺めている。
「恭介」
「あ、悪ぃ。英語から順に76、60、72、89、89」
有理の苛ついたような声に浅井は慌てて資料を読み上げた。有理は溜息を吐きながら自らの仕事をこなす。
「流石兄貴。数学の神っぷり発揮ですね」
筧がニヤリと笑いながら言った。
「流石って有理と同じ点数だぞ?理科は有理のが一点高いし……」
「でも、数学はお前らが学年最高点だ」
浅井の言葉にどこからともなく拍手が起こった。皆川は思わず口元を緩める。
「で、次に行く。筧俊樹、417点で16位、英語から74、78、78、95、92」
「お前も数学が出来るようになったな」
皆川が筧に言った。テスト前に時間を割いた甲斐があったな、と人知れず悦に入る。
「数学の神に教えてもらったからですよ。これで点取れなかったら申し訳ないだろ」
筧の自信に満ちた言葉に隣の西園寺が身を縮めた。
「で、藤岡沙理菜。416点の17位」
「嘘、筧に一点負けた!?」
「また俺の勝ちだな」
悔しがる沙理菜に勝ち誇る筧。ぶつかった沙理菜と筧の目が火花を散らす。
「でも、前は私が三連勝だったからね」
「昔は昔だろ。それに、次俺が勝てば三連勝だし」
「次こそ勝ってやる!」
「出来るものならな」
「お前ら、いい加減にしろ。ちなみに英語から94、89、96、66、71だ」
浅井が一喝し、場は再び静寂を取り戻した。
「で、問題児西園寺翔。お前もまたか」
呆れたように浅井が言うと、西園寺は益々小さくなった。
「232点、98位――後ろから数えた方が早いんじゃねぇか? で、英語から41、50、53、41、47」
「補習ギリギリだな」
皆川がボソッと呟いた。その時、突然ガタンと大きな音がなり、沙理菜の座っていた椅子が倒れた。
「あー、もう我慢できない。西園寺、あんたいい加減にしなさい! 折角時間を割いて英語を見てあげたってのに半分越えないってどういうこと!?」
「同感。流石の俺でもそろそろキレるぞ」
沙理菜は鬼のような形相で、筧は冷たい目で西園寺を見ながら言った。西園寺は焦りを隠しきれずに二人から目をそらす。
「で、でも」
「言い訳は認めない」
沙理菜と筧が同時に言った。まわりは苦々しく彼らを見る。
「全く、あんたに何時間も付き合ってあげた結果がこれ? ほんと、どうにかならないの? 前回も、前々回も……」
「沙理菜さん、流石にその位にしてあげなさい。耳が痛いわ」
有理が的外れな不満を漏らした。沙理菜はまだ言い足りないようだが、しぶしぶと椅子に座り直し、西園寺はそっと胸をなで下ろした。筧に至っては既に興味がなくなったように携帯をいじり始める。
「皆川先輩、前回も、前々回もって?」
怜が皆川にそっと訪ねる。皆川はにこりと笑って言った。
「学年上位層の筧と沙理菜がテスト前に西園寺に数学と英語を教えてるんだが、いまいち結果が奮わなくてな」
「兄貴ぃー、それ以上俺の傷をえぐんないで……」
西園寺は情けない声をだして、机に突っ伏した。
「テメェら静かにしろー。んで、筧は携帯仕舞え」
明らかにやる気のなくなった浅井が言った。ぐだぐだした雰囲気の中、一年の成績を読み上げる。
「まず平田。421点、11位。英語から71、87、78、89、96。で朝倉が376点、40位。で、71、71、74、78、82。二人共まあまあじゃねぇか」
「これ位普通だろ」
「良かったぁ……」
二人が違った反応を見せるなか、晴輝は声を上げた。
「なぁ、俺、俺は?」
「桜井、お前は期待出来るような成績じゃねぇよ」
浅井が声をワントーン落として言った。重い空気が漂う中、一人晴輝はキョトンとしている。
「桜井晴輝、総合214点。英語40点、社会46点、国語43点、数字40点、理科44点…… どうやったらこんな成績が取れるのか不思議だ」
浅井は資料を机に置いた。そして呆れたように晴輝を見る。ホワイトボードに文字を記入し終えた有理も同様に晴輝を見た。生徒会ツートップからの視線に流石の晴輝もたじろぐ。
「桜井くん、ちゃんとテスト勉強したのかしら?」
有理の威圧感に晴輝は小さくなった。テストの出来が悪い原因に心当たりはあるようだ。
「オール40点台とは前代未聞だな。ある意味凄ぇ」
「恭介!」
呆れたように呟いた浅井を有理は一睨みした。浅井は肩をすぼめると生徒会の面々を見渡した。そして、ため息一つ付き、
「西園寺と桜井は生徒会でみっちり補習してやる。教師は俺と有理、亮太、筧、藤岡だ。いいな」
と二人に刑を宣告した。
